おさないおとがい(081224)






うとうと目を細める雲雀の背を、やわく撫でるのがとても好きだと思う。
きゃしゃな肩からそうっとななめ後ろにてのひらをすべらせると、はじめは居心地悪そうにむずがる雲雀がしばらくするとその感覚に慣れてしまうのがかわいくてしかたない。
そのうちに、安心したみたいにすうすう寝息をたてはじめる、その寝入りばなのひとつながりの時間を見ているのも好きだった。

ベッドサイドで燃えるアロマキャンドルのほの暗い灯りが、雲雀のくろいつやつやの髪に反射して揺れる。しろい顔は影になっているけれど、くっきりと長いまつげがひそやかに空気をふるわせているのが近すぎる距離のおかげでわかった。

(きれーな顔してんだよな…)

ふだんじゃじゃ馬で高慢ちきでいばりんぼうでいじっぱりなせいか、寝顔はいっそうおさなく見える。いつもはきゅっとへの字に引き結ばれているくちびるがほどけてしろい歯がのぞいてどきっとした。
ずっとながめていても飽きないんじゃないかと思う。実際はじめてこうやって眠ったさむい冬の日は、警戒心のつよい弟子にほんのすこし心を許されたような気がして地味にしびれるほど感動してしまい、すこやかに眠る雲雀をよそにディーノはろくすっぽ眠れなかったのを思い出す。
また今日もいつまででも見ていられそうで、見ていたくてたまらなかったけど。さすがにそれは明日の仕事に支障が出てまずいと痛いほどわかっていたので、惜しい惜しいと後ろ髪を引かれつつ雲雀の背から腕をゆっくり遠ざけた。
そのままそのてのひらを煽ったかすかな風でキャンドルの火を消す。おぼろげな炎はあっけなく消し飛び、ひとすじのちいさな煙が夜の空気にはかなく溶ける。瞬間、腕をぎゅっと捕まれてぎょっとした。

「……ねぇ」
眠りを遮られあからさまに不機嫌な声で呼びかけられて冷や汗が背中を伝い落ちそうになる。眠りの浅いねばなから、深い眠りに落ちるまでは腕を休めてはならないと以前指導されていたのを思い出した。
「…ごめん」
手休めて、と額に軽く謝罪のくちびるをつけるとうっとうしそうに肩をすくめられた。
「なに言ってるの…」
「ん?」
「…におい」
やだ、と舌足らずにつぶやく。
「んん?」
わけがわからないという顔をしたディーノにかまわず雲雀はもそもそと腕を伸ばしてきた。
ねむたいくせにばか力だ。動脈のはしる人体の急所を捕まれ、思いのほか強い力で引き寄せられて、でも雲雀のほそい腕の中におとなしくおさまった。ふっと満足そうに安堵した吐息がこぼれてディーノの髪をくすぐる。
「…あのろうそく、二度と燃やさないで」

落ち着かない。寝れない。

舌打ちしそうないきおいのまま吐き捨てて、ディーノのにおいを雲雀はくん、乱暴に。けれど胸にいっぱい吸い込んだ。抱きこまれた頭の目の前の肺が大きく膨らむ動きでそれを知る。
ディーノの髪の中にくちびるを埋もれさせたままもごもご話すものだから聞き取りづらかったけど。ちゃんと聞こえていた。
やっぱり、かわいくていとしくてどうしようもない。

「…ん、わかった」
もう一度ごめんとわびるとわかったならもういいよといくぶんとろけた声が返ってきた。もう怒ってはいないらしい。
「それより、」

ねえ。
あやす動きを止めていた腕をぐいぐいひかれて怠慢な腕の動きの再開を促される。
きまぐれなねこに似ているかわいいこどもは、それがどのくらいディーノを嬉しがらせるかわかっているんだろうかといっそ心配になる。小言のひとつも言いたくなる程度には。
でもいまは、ディーノが持っている雲雀が好いてくれるものぜんぶであまやかしてやることにきめた。
どうせ明日もあさっても。
ずっとあまやかしてやりたくてしかたないに決まっているけど。