このこどこのこ(090111)






「恭弥!」
ディーノの雲雀を呼ぶせっぱ詰まった声は、けれどしろい煙にはかなく飲み込まれてしまった。



沢田家を訪れていたディーノは、「お友達が来るのよ〜」と困り顔の奈々のため、いつもこどもたちできゅうきゅうの和室からちびっこを連れ出して家の前の道路で弟分のツナともどもその相手をしていた。
「すみませんディーノさん…」
ガハハと暴れまわるパンチパーマにまとわりつかれたツナが疲労困憊のていでトホホと呟く。ちびのパンチは力加減の容赦がないぶんけっこうこたえるらしい。
「いーっていーって。奈々さんのためだからなー」
イーピンとけんけんぱをしながらディーノはわらう。日本でこういう風に過ごすようになって子どもの遊びにもずいぶん詳しくなった。イタリアに帰ったら、またあっちのこどもたちにも教えてやれるしな、と言うディーノを見てツナはかっこいいなあなんてちょっとてれてしまう。こんな人がマフィアのボスだなんて、ツナはいまだにちょっと信じられない。

「ランボさん缶蹴りしたいんだもんねー!!!!!」
「…!」
じんわりあったかいきもちにひたる暇もない。さっきまでひとり陣取りに夢中だったランボが体当たりをしかけてくる。ぼーっとしていたからか、けっこうまともにくらってしまいむせた。
「ちょっ…ランボ!おまえなあ!」
「イーピンたちもするんだもんね!」
ツナの小言に耳を傾ける気配はこれっぽっちもなく、ランボはイーピンとディーノが遊んでいる、地面にチョークで書かれた丸を勝手に消していく。それに怒ったイーピンがランボをぺんっとたたいて、そこから大喧嘩になった。
「こらこらこらー!」
わーっとあたまをかかえたツナが、もつれあってけんかしている二人を引きはがそうとして両方から攻撃を受ける。ランボのパンチはともかく、頬にくらったイーピンの蹴りは強烈そうだ。
惨状を傍観していたディーノだったが、ほぼ三人でけんかしているような状態になってきたのでここは年長者の出番かなと割って入ろうとしたら。

「なに群れてるの?」
「恭弥!」
さきほど沢田家に来るまえ、「今から巡回なんだからどっか行って」とディーノの誘いをすげなく断ってきたその相手は、言葉どおり正しく巡回中らしい。
「いやーそれがさあ…」
状況を説明しようとしたディーノの背後で、ひときわおおきい泣き声がこだまする。
「イーピンがぶったぁ!」
わーんと鼻水をたらし泣きわめくランボがもしゃもしゃの頭のなかからこどものおもちゃというには物騒なものを取り出し、おもむろにかまえた。十年後バズーカだ。
「げっ…!」
「ちょっと、あなた大人のくせに…!」
自分に向けて撃つつもりなんだろうバズーカの銃口は、でもちょうどランボの正面で息を切らしているイーピンに向けられている。ちっと舌打ちした雲雀のからだは、ディーノが止める間もなくばねのあるしなやかな足で地面を蹴っていた。重力なんて感じさせない軽さで。
「恭弥!」
「雲雀さん!」
とっさに伸ばした手はきゃしゃなからだにふれることなく宙を掻いた。