(090122) たとえ姿が見えていても、体温がないと落ち着かないらしいことにはまいった。この件についてはリボーンにむりくりひとつ約束を取り付けたので、どうしても仕事を片付けておかねばならないのに。 「恭弥ぁたのむぜ〜…」 ベッドから立ち上がろうとすると雲雀をおいたままどこかへ行ってしまうと思うのか、ディーノが振り払えないのをいいことに服をつかんだ指に力をこめるものだからさっきから一歩も動けない。 ディーノを思いどおりにするのはさすが雲雀だけにばつぐんにうまい。もちろん常日ごろから雲雀にあますぎるディーノが勝手にいちばん悪くてちいさい雲雀にはちっともそんな気はないのだろうが。ただまったく計算がないかといえばそうはいえないと思う。ディーノが雲雀を振り払えないことにはたぶん気付いている。りこうな子だ。 これでは片付く仕事もかたづかないとディーノがあたまをかかえているとロマーリオたちが大量の荷物をかかえて帰ってきた。渡りに船。 「ボスー買ってきたぜ〜」 どかどか(といってもマフィアの中じゃそうとう紳士的なほうだ)ディーノの部屋にやってきた黒服のいかつい部下がまるで天使に見える。急いで雲雀をだっこして愛すべき部下を出迎えると、たいていのことにはひょうひょうしてあまり動じないロマーリオでさえ本日初見の雲雀に目をまんまるくして口をぽかーんとあけた。 「おかえり。はやかったな〜ありがとな。」 雲雀は見知らぬ黒ずくめをディーノの胸に抱かれたまま興味深げにじっと見ている。あまりものおじしない子だ。 「とりあえずメールで頼まれてたモンと、あといろいろな。」 おやつとか。 おおそれは思いつかなかった。おやつの入った袋を雲雀をだっこしている腕と反対の手で受け取る。 「しかし十年後バズーカなんてのは噂では聞いてたが…」 ひげをしゃくりつつしげしげながめながら顔を近づけるとさすがに雲雀がディーノをつかむ手にちょっと力を入れてきた。 「これが恭弥とはなぁ。ちっちぇえなあ」 ボンジョルノ、とうやうやしく笑いかけられ答えかねているが、ていねいなあつかいはちびなりにわかるらしい。どこもまでもちいさな王様に苦笑する。 「恭弥、これはロマーリオな。」 「…」 「ロマは平気か?」 「………」 「…」 「…」 「…俺が仕事してるあいだ、ロマに遊んでもらえるか?」 「…」 言葉での反応がうすいぶん、行動が顕著すぎる。容赦ないこどもの力でまたぎゅーっと服をつかまれる。ついでに服の下の皮膚とか肉とかも。痛い。 「ずいぶんなついてんじゃねえの」 「それはうれしいんだけど、でも仕事がさ…」 「しょうがねえよ。チビだっこしたままやるしかねえ。子連れ狼みたいでかっこいいぜ、ボスよ」 とりあえず誰の手に渡る気もない雲雀をだっこしたまま執務机についてみたものの、からだの前面にべったりはりつかれているとやはりやりにくくてかなわなかったのでノートパソコンを持ってベッドに移動してみた。足のあいだに雲雀を入れてさきほどロマーリオたちの買ってきてくれた絵本を渡してみるとあんがい夢中になっている。背中全体にディーノの体温があるのもいいらしい。このすきに、とディーノも不安定な体勢ではあったがメールをうちまくり書類を作りまくった。執務机にのっけてあるプリンタからがんがん出力する。ころあいをみてときたまちゃんと紙を足してくれている気配がして、ほんとうに部下にめぐまれているといつものことながら感謝する。 われながら近年まれに見る集中力だった。 ふと足元を見ると、雲雀がうずくまってくうくうねむっている。ディーノが仕事をしているあいだ、何度も読み返したんだろう絵本をだっこしたまま。 (悪かったなぁ…) かわいい寝顔だ。あどけない。 (…ほんとに天使みてえ) ふわふわのほっぺをつつこうとしてやめた。もし起こしてしまったら罪悪感で死んでしまうかもしれない。 手近というにはちょっととおい場所にあったうすい毛布を、上半身をすごくがんばらせてなんとかたぐり寄せふんわりかぶせた。そーっとはなれようとすると「ん、」とかなんとかもごもご言うので、着ていたシャツもゆるくつかまれていたズボンもぜんぶ脱いでそばにおいておいた。脱ぎやすい服でよかった。ずーっとべったりそばにいたいきもちはディーノとしてもやまやまだが、電話で片付けないといけないこととかサインしなければいけない書類もてんこもりなのだ。 あたらしい服を着込みつつ、仕事の流れをはんすうする。電話はうるさくて起きてしまうだろうから別の部屋で終わらせサインはローテーブルをベッドのそばに寄せてやることにする。電話のあいだ雲雀はロマーリオにみていてもらおう。 そういえばおやつをあげるのを忘れたなと反省し、夜はうんとあまやかしてかまいたおしてやろうときめた。 (あ、でもその前にロマに言っとかねーと…) どうしようもないボスだとあきれられるかもしれないけど。 きめごとをひとつ。相談ではなくお願いでもなく認可してもらうためにディーノはそっと雲雀のねむる部屋を出た。 |