(090125) さわれば折れそうなちいさなせぼねを指先でたどるようになでる。こまかくふるえていた雲雀の手がゆるんで、ディーノのシャツからもぽとりと落ちた。落ちついたのかと思って顔を見ようとからだを離すけど、うつむいたままのあたまはつむじくらいしかみえなくてどんな表情をしているかわからない。 「恭弥、かおみせて」 おさないからだにどうせ力を入れることはできないのでむりやりこちらを向かせることはせず素直にお願いする。しゃがんだからだをさらに低く折りたたもうとしたら。 「あ!」 ただ肩にのっかっていただけだったディーノの手を置き去りに、雲雀がててっと走り出してしまった。 「こら!恭弥!ツナおっかけろ!」 ランボやイーピン(とくにランボ。)もそうだけど、なんでこどもは急にあらぬ方向へ走り出したりするんだろう。もうとっくにこどもでないディーノにはわからない。が、走り出したチビをそのままにするわけにももちろんいかないのでもつれる足で立ち上がってこけそうになりつつ追いかける。 コンパスはみじかいくせにつむじ風みたいにするどく走っていく雲雀になかなかおいつけない。どこに行く気なのかあてもないのに、かどを曲がってみたりおなじ場所をくるくる回ってみたりするものだから見失わないようにするのがたいへんだった。撒かれている気になる。 「わっ」 何度目かわからない曲がり角をまがったところで綱吉にぶつかってしまう。 「あれ、雲雀さんは…?」 ふたりしてきょろきょろあたりを見回すがなまいきないきものの姿はみつからない。正直こどもだと思ってなめていた。さーっと血の気がひいていく。 「ツナそっち探してみてくれ。」 ひとしきり走り回ってみるもののなかなかみつからない。目標物がこぢんまりしているから仕方ないといえば仕方ないのだが、目に見えない時間が長いほど心配もむくむく比例して膨れあがる。 「くそっ」 ぶんぶんあたまを振ってもやもやを振り払おうとしてあんまりうまくいかなかった。マフィアのボスのすることじゃないと落ちつこうとするけどどうにもうまくいかない。気を取り直そうとそもそもことの起こった綱吉の家の前へ戻ろうとわかりやすい道に出ようとしたら。 ほんのちょっと先に、大通りに向かってちょこちょこ足早に歩いている雲雀がいた。名前を呼ぼうとしてまた逃げられてはかなわないので自分の手でもごっと口をふさぐ。どうも雲雀のこととなるといっぱいいっぱいになってしまっていけない。ディーノも自覚してはいるので、うしろから近付いてひとおもいにつかまえてしまおうときちんと算段してそろそろ距離をつめた。 けれどこどもなのか雲雀だからなのかとにかくつねにディーノの予定の斜め上をいってくれる雲雀はまただっと走り出してしまう。その先が大通りだったものだからあわてて、ついまた名前を呼んでしまった。 そうしたらぴくっとそのからだが止まって、すぐうしろから聞こえたディーノの声のほうを振り向く。そのきょとんとした顔にほっとして、けどまたすぐ前を向いて走り出したちいさな雲雀に自転車の影がさしかかって冗談でなく青ざめた。 「恭弥!」 金属が皮膚とぶつかるなんともいえないにぶい音がして、ぼたぼた垂れおちる血が、でも雲雀のものでなくてよかったとばかみたいに安心した。 「きょうや、」 ディーにつきとばされた体を硬直させぽっかり口を開いている雲雀ににじりよって、もうむりやりでもいやがっても有無を言わさずぎゅっとだきしめる。したたる血が雲雀をすこし汚してしまったけどかまわなかった。 「だいじょぶだな。」 すりむいてしまったまあるいひざはあとで消毒薬がしみるかもしれないけど。 とにかくたいしたけがでなくてよかった、と息をはいて腕にぎゅぎゅっともうちょっと力をこめた。 「まあまあまあどうしましょう大丈夫?!」 おろおろとうろたえたかよわい声が近寄ってきて、かたわらに腰が落とされる。奈々の声だった。 「奈々さんすみません驚かせて。」 「カゴで頭切っちゃったみたいね…痛いでしょう」 清潔なしろいハンカチであたまをそっと押さえられ、当のカゴを見やるとなるほど銀の金具がちょっとひしゃげている。その中の、並盛の有名な洋菓子店のシールが貼られた平らなオレンジの箱も。 「あー…ケーキも。だめにしちまって」 「そんなのいいのよ。それより、そっちのちいさい子もおひざ怪我しちゃったわね。」 ごめんね、とディーノの腕の中にいる雲雀のあたまに奈々のたわやかな手がそっとふれて、そのあったかさに正気づいた雲雀の黒目にはとたん、じわじわ水がにじんだ。 「あらあら。こわかったのね。びっくりしちゃったね。」 わんわん泣くことはなくて、ぐずぐず鼻水をすすって耐えきれなかった朝露みたいななみだを両目からぽたぽたとおとすあまりにらしい泣き方に苦笑する。そのうちにディーノのシャツに顔をうずめてしまった。すすりきれなかった鼻水がしみてくる。 もちろん驚いたのもあるだろうけど奈々のあたたかい手で母親を思い出してしまったのかもしれないと思うとかわいそうになった。あまくてやわらかい、いかにもおかあさん、な奈々の声を聞いていると成人しているディーノでさえどこかきゅんとなつかしいノルタルジックなきもちになるのだからましてチビの雲雀ではなおさらだ。 泣き顔を見られたくない、いっちょまえな雲雀のつむじにくちびるを寄せるように顔をうずめて、ディーノはもういちどよかった、とためいきをついた。 |