(090224)






「風呂、入ろっか」
あたまに置かれていたてのひらがぱっと離れたから首をちょいと持ち上げてディーノを見る。ことさらに明るい口ぶりだった。もう見慣れたいつもの顔をしている。
もうすこし、みたことない表情を見ていたいと思った。
「あなたも入る?」
「ん?恭弥が先でいーぜ。」
ただしまだシャワーだけな、と念を押される。
「…お湯につかりたい。」
「だーめ。体力消耗すんだろ」
年上ぶった指先がちょんちょんと鼻先にさわってきて、くすぐったくてむっと眉を寄せる。
「怒んなよ」
ディーノのまとう空気までふわふわわらっていた。それにくるまれている。そうしたらなんだか全身がむずむずこそばゆい気がしてわずかに肩をすくめた。


「せまい」
「がまんしろって」
「…せまい」
「もー終わるから」
「…」
「ほら、あたま流すから目閉じてろ」
結局せまいホテルの浴室に、縦列駐車の車よろしく規則正しく縦に並んで入っている。
どうせお前は俺が後から入ってるあいだに頭も乾かさねえだろと言われてたしかにその通りだったので否定せずいるうちに一緒に入って洗ったほうが効率がいいと勝手にディーノがきめたのだ。
体育座りをしたながい足のくるぶしが、同じようにひざをかかえた雲雀の腰骨にこつこつぶつかる。したたり落ちてくる白い泡の濁流がくるくるうずを巻いて排水溝に吸い込まれていくのを薄目で見つめていた。
さあっとシャワーヘッドからあふれるお湯がそこかしこをなでている音にまじって、カードキーで部屋をあけるちいさい電子音がする。
「おーいボス!恭弥がいねーぞ!」
他人の侵入にひくりと警戒をにじませたらそれを過敏に感じ取ったディーノになだめるように肩をなでられた。よく考えればディーノも他人だ。それもなんだかおかしなことだと雲雀は思った。
「あーいるいる!風呂入ってる!」
「ああ?」
ごつっと無骨なノックの音がしてから無遠慮に浴室のドアが開いて、クリーム色のシャワーカーテンごしに状況を察したらしいディーノの腹心の部下からは「お、」と感心したような声がもれる。
「寝ぼけてんのかと思ったぜ」
「さすがにそれはねえよ」
「まあもうろくするにはまだちょっとはえーな」
「おまえな。…あーそうだ。ロマーリオ、恭弥になんかおじやかおかゆかうどんみてーなの用意してやってくれ。もー風呂あがるし。」
言葉どおりディーノの腕がにゅっと伸びてきて雲雀の横を通り過ぎた。きゅっとコックをひねった手でそのまま髪の水分をかるくしぼられる。
「熱はもうねーのか?」
「さっき計ったらもう六度くらいだったしちょっとくらい食った方がいいだろ。食えるよな、恭弥。」
「…」
「食えねえ?」
ぬれた髪をうしろになで付けられた。耳元でこしょこしょ言われてむずがゆい。選択肢を吟味しているところなのだからもう少し待てばいい。せっかちすぎる。ぼんやり考えているうちに大判のタオルに頭から被われた。ふんわり空気を含んだパイルがここちよく、とろんとあたたかな乳白色にくるまれている。おかゆの色だなあと思った。
「………おかゆ」
「ロマ!おかゆな!おかゆ!」
いずれにしてもディーノは騒々しい。