(090227)






「……う……」
腹部が重たい。いやな汗をかいている。眠るまえに考え事をしていたからだろうか。腸をそのまま押し出される圧迫感。
ごそごそ腹をさすろうとしてできなかった。なにかに腕がつっかかる。それがぎゅうぎゅうディーノの腹を押しているのだ。
「……あ?」
もったり薄目を開く。何度かまばたきをしたら、薄暗い部屋だからすぐ慣れたけれど遮光の厚いカーテンでもうっすら光を透かしている。外はきっと快晴だろう。
つやつやとぬれた大きな黒目がディーノをじっと見ていた。
「恭弥」
起き上がろうとして失敗する。雲雀がディーノの腹の上に乗っているのだ。下腹部に腰をおちつけて胃だの腸だの臓器の上にしっかり手をついてディーノの顔をのぞきこんでいる。
博物館のガラス越しにたいそう珍しい陳列物を見るようにしていた。ほとんど観察と言って差しつかえないくらいまじまじ見られてディーノもどうしていいのかわからない。とりあえず寝起きのなまっちょろくゆるんだ腹筋にぐっと力を入れて身を起こした。
「こら」
寝転んだディーノの水平な腹の上に落ち着いていたてのひらは傾斜が変わったことでシーツの上をつるんと直角にすべり落ちる。そのせいでバランスをくずしてちょっとだけよろめいた雲雀のからだをディーノは両腕をとってほんのり引き寄せてやった。ねまきがすこしひんやりしている。
「おまえな、苦しいだろーが」
腸がよじれるかと思ったぞ、とうりうり鼻を擦り付けていやがらせをしてやるとたいそういやそうな顔をするのがかわいい。反抗期のこどもみたいだ。
「めずらしいものさらしてるからいけないんだよ」
「めずらしい?」
「みたことないものはめずらしいものだろ」
「まあ……うん。そーなんのかな?」
「そうだよ。」
「めずらしいか」
「もうそうでもない」
どうもディーノの寝顔のことを言っているらしかった。なにせ昨日まで雲雀の方が寝顔をみる機会そのものを拒否していたのだからまあ珍しくてあたりまえだろう。起きているディーノは見飽きているのか近い距離でふわんとひとつあくびをした。もごもごしている口がかわいい。ディーノにしてみれば雲雀のほうがよっぽど珍しいいきものなのになあと思う。めずらしくてかわいくてついついかまいたくなる。
顔をそむけてくっつけた鼻を離そうとするのでおとなしく離れてやった。
「そうだ、おかゆ食わねーとな」
「そんなことよりやろうよ。昼まで寝たら体がなまってしょうがない」
「……おまえなあ……さすがに昨日の今日でそれはだめだって」
「もうどうってこともない。」
「だめ。寝てろ」
「無理な相談だね」
「だーめ。」
「ねえ」
「……だめ」
「ねえってば」
「……」
雲雀はうずうずしている。あんまり期待にみちた空気をみなぎらせて、自分から離れたくせにまたディーノに近づいてきた。ディーノがだめをくり返すと口をちょっととがらせるのにどうにもどきっとしてなんだかなあと思う。結局ディーノも雲雀とやりあうのが楽しいのだ。認めないわけにもいかない。
「……おかゆ食うか?」
「食べてあげるよ」
「……食った後ちょっと寝て胃休めるか?」
「……三十分だね」
「……」
どこまでもえらそうにしている。すべてにおいて上から目線だ。だけどもディーノは感動していた。あの雲雀恭弥が曲がりなりにも交換条件といえなくもないものに応じている。学校の屋上でディーノがほぼ一方的に取り交わした約束よりよっぽどしっかり会話が成りたっていた。慣れとはすばらしい。
「じゃあその後指輪の話、ちゃんと聞くか?」
「聞いてあげてもいい。そのかわり本気でやりなよ」
おお、と心の中で感嘆の声をあげる。交渉成立だ。