(090303)






やはりというべきかなんというべきかヴァリアー(と山本)にけんかを売ったらしい雲雀は、今はそんなそぶりまるで見せず品行方正そうな顔ですうすう寝息をたてている。
黙っていればすなおでかわいい優等生に見えなくもなかった。シャツの丈もズボンのすそも申し分ない。つやつや黒髪の風紀委員長だ。形容句だけなら。
ほとんど正方形のだだっ広いベッドの上、あぐらをかいたディーノの足元にまとわりつくように背をまるめている。指輪の話をしているうちに眠ってしまった。話の後半はひとみどころか上半身ごとうつらうつら揺れていて、どこまで理解しているのかはあやしいものだったけど。
しかも今日最後に発せられたまともな言葉が「この指輪を持ってればあなたみたいのがそっちから寄ってくるわけだね」だ。
(うれしそーに言いやがって……)
うっとり夢みるように言われてしまえば例によってディーノは言葉につまってしまう。ぶっそうな期待をとがめることさえできない。
理解してほしかったのはディーノとしてはもちろんそこではなかったにしてもだ。
ただ雲雀恭弥が他人の、それも長ったらしい話を暴れだすでもなくおとなしく聞いていたことがすばらしいことだ。あらゆる意味での弟子の成長をうれしく思うことくらいはいいだろう。ディーノの方でも、洗いざらいすべて話したことで再度腹が据わったのかもしれなかった。あとはもう夢中で教え子を強くするだけの話だ。この先ずっと。
「きょうやー……」
「……ふ、」
耳のうしろをこしょこしょくすぐってみる。肩がすくまって、いやがっているのが知れた。それでも目をさまさない。
慣れている。ディーノという存在に。慣れてくれるのはうれしい。うれしいけど、すこし慣れすぎなのかもしれないという気もした。野生のけものにえさをやる後ろめたさに似ている。人間に慣らしてはいけないもののような気がするのだ。
すこし開いたままのくちびるからしろい、虫歯なんてなさそうなエナメル質がのぞいていた。その象牙色のうつくしさにわずかなめまいを覚えてディーノはくらくらする。耳にたあいないいたずらをしかけていた手をすべらせ親指と人差し指でちょい、とさわった。
(やーらけー……)
ふにふにしたこどものやらかさだ。平素、雲雀がまとっている雰囲気の硬質さとはまるで違う。規則正しい呼吸がディーノの先端にふれた。肺から押し出された空気のかたまりだと言えばそれまでだけど、雲雀の温度をうつしたそれをとてもただそれだけのものとディーノには思えない。
くちびるを閉じさせようとしたその指先を、けれどすぐに離さずぼんやりしていたのがいけなかった。
「きょ、」
かさついているなあと思ったら気になって、親指の腹でなぞりなぞり本来の目的を忘れ雲雀のくちびるにいつまでもふれていたらその指先を雲雀が食んできた。
「おい……」
ゆるやかなうごきで歯をたてられているわけでもないから痛みがあるわけではない。はむはむと口を動かしてぬくい皮膚を擦り付けてくるものだから、うすいくちびるの内側がちらりとめくれて表面よりもっとあざやかな赤がディーノの皮膚にぴっちょりはりついている。
(…………これは……)
どうなんだ、と思った。思っただけでたいしてまともなことは考えられないので意味がない。思考を停止させているあいだにもふにゅふにゅとくちびるが動いて親指にこすれている。動物のこどもが親からミルクをもらうようなつたなくて必死な。
どこまでもこどもっぽいだけと言えばそうだけど、ディーノが身に覚えるどきどきとかあっとあつくなる全身の熱は、こどものあどけなさやあいらしさに覚えるものにしてはいささか高鳴りすぎている気がした。