(090303+090321)






「……おまえはほんと、ぜんぜんかわんねえなあ」
ぐったり腕の中で気絶したようにねむりこけているかわいい教え子をディーノはかるく抱き上げ背をなぜた。
せまくちいさな、成長途中のたおやかなやわらかい背中。
三十を過ぎたディーノと十五の雲雀ではけんかも力比べも当然だけどとうていお話にならない。
年齢が強さに直結するわけでもないけどディーノもこの十年だらだらさぼっていたわけでもなかった。地力も経験もなにもかも違いすぎる。それでも当然のようにディーノに勝つつもりで挑みかかってくる雲雀のたちは今も昔もこれっぽっちも変わっていなくて、それがはったりなどでなく本気だからすごい。根性が。
しかも雲雀はたいそううれしそうな顔をするものだからかわいくてしかたない。
覚えたての炎のちからをまだうまく使いこなせるわけでもその性能をわかっているわけではなかったけど、夕暮れ色のうすいむらさきの火を武器にまとわせたりしてディーノを実験台にぶつけてくる。
新しいものへの好奇心は尽きないらしかった。うずうずしている雲雀の顔を見るとディーノも否応なしに高揚させられてしまって、ほんとうは一刻も早く匣の話や未来の話をしなければいけないのにじゃれついてくるかわいいいきものをいさめることもできず一緒に転げまわって遊んでしまった。
そうこうしているうち、雲雀としてはいつもどおりのつもりだったのだろうけど体は正直なものでディーノとやりあってずいぶん疲れてしまったらしい。ちっと休憩な、と言ったとたん「まだやれる」と憎まれ口をたたきながらほとんど気絶するみたいにべちょりと倒れてしまった。
しゃべりながらねむるとは器用なことだ。あわてたディーノが抱き上げてもちょっと身をふるわせただけで起きもしない。
ちょうどディーノに馴れはじめたところだったんだろう。
猫のこどもみたく軽い体だ。こんなだっけなあ、と何度もおんぶしたりかつぎあげたりじゃれあったからだのことを思う。十年も前の話だった。
(じゅうねん、かあ)
産まれたての赤ちゃんは小学生になって、小学生だったこどもは成人している。雲雀は。雲雀もいつの間にかおとなになって。
いつまでもかわいいこどものままだと思っていたのはディーノだけで、またたきする間にも雲雀はきっとすくすく大きくなっていた。
ディーノが見逃していただけだ。

てきとうに投げ出された腕がディーノの広い背中でゆれる。くん、と眠りの中でもディーノの肩に鼻をすりつけてくる動物っぽいしぐさに笑みがこぼれた。目だけでなくにおいや声でいろんなものを把握しようとするくせがいとおしい。すっと通ったすずやかな鼻梁には似つかわしくないかわいいしぐさだった。
(……ああ、こんなだった)
ふれていれば十五の雲雀はディーノの記憶の中の雲雀とすり合わさって、ぼやけた二重の像が焦点を結ぶようにすこしも違わないでひとりの雲雀になっていく気がする。
細部は時間がすこしずつ上書きしていっているのかもしれないけれど、ディーノ中ではいつでも攻撃的でなまいきでじゃれついてくるのが何より好きな、のびやかですこやかなこどもだった。
「久しぶりだなあ、恭弥」
雲雀であって雲雀でない。
十五の雲雀にひとりごとのように呼びかけた。
とうにおとなになったボンゴレの雲の守護者。まだディーノと出会ったばかりのあどけないこども。どちらも雲雀なのにおかしなことだった。
雲雀はなんの警戒もなくディーノの腕の中ですやすや眠ったままでいる。くちびるのそばにあるしろくしなやかなうなじにそうっとさわった。
もうこんなふうに雲雀に触れなくなって久しい。背骨を、なんともいえないもどかしくややこしい気持ちがむくむく這いあがってくる。