(090329) 結局どろどろになるまで戦ってから雲雀はこてんと寝てしまった。それこそ泥みたいに寝ている。 まだ守護者最強の雲雀恭弥のように炎と匣を手足の延長のように使いこなすわけではないからディーノはたいした傷もなくつるんときれいなもので、こどもの衣服と肌だけがほこりまみれ傷まみれだった。 ねむってあたたまったからだを昨晩同様ベッドに横たえると今日はすなおに腕が落ちてふにゃりとベッドに沈む。ちいさな手をシーツの中へしまって、その上からなでようとして結局やめた。 どこもかしこもほんとうにふにゃふにゃとやらかくてかわいくて、目にかかる前髪が作るほのかな影がこどもをもっとこどもらしくさせている。 雲雀はじっと動かないでかすかな深い呼吸をくりかえした。ディーノはベッドのふちに腰かけてその息づかいを見ている。さわるととけてしまいそうだった。 よけいな物音ひとつしないしんと静かな部屋でやさしい耳鳴りにおそわれる。時間の感じかたさえあいまいになるおかしな感覚だった。 ゆるく目をつむる。雲雀とディーノ。ふたりだけがいる。閉じたせまい場所。 耳の奥できんと神経がしびれている。あまりぐずぐずしていると立ち上がれなくなりそうでディーノはつむったときとおなじようにゆるくまぶたを持ち上げた。雲雀の肺がうすく上下している。ただそれだけのことでなぜだか泣きそうになった。 さわっても飛び起きないことにむずがゆく背筋をくすぐられている。もぞもぞもぞもぞ、昨日からちっとも落ちつかなかった。気持ちがうわついてしかたない。 雲雀恭弥が他人の前で、ディーノの前でもごもご眠っている。凶暴できまぐれなかわいいいきものにゆるされている気になった。 おでこにさわってしまわないよう、さらさらとほほえましい前髪の長さだけをすくい上げてからディーノはそっと立ち上がってみる。 ベッドのスプリングがきしっと音をたててどきっとした。雲雀を起こしてしまうかもしれないという心配はんぶん、起きてまたかわいい目を見れるかもしれないという期待はんぶん。 あからさまに期待が勝っていることに気付いてディーノはなんだかなあという気持ちになる。ちょっと首をかしげた。 尻にとりもちがくっついたみたいに未練がましくのたのたしている。二三度といわず四度ほどふりかえって部屋を出た。ドアまでのみちみち、雲雀にふれた手が自分の手だということを確かめるようにディーノはコートのポケットのなかでぎゅっとてのひらを握る。ゆびさきにまだ、さらさらの髪のかんじが残っていてどきんとした。 ボンゴレのアジトで綱吉たちに宿題を与えて帰る道すがら、何度かずっこけながらやっとたどりついたホテルを背にしてディーノはまたてくてく歩いている。 なにせ帰ったら雲雀がいなかったのだからしかたない。 フロアごと貸し切っているからとエレベーターにつけていた見張りはきれいに気絶させられていておしおきしてやらねえとなあと思った。 秋の夜風がディーノをからかってそのひやりとした冷たさに目を細める。雲雀の行くところなんてひとつしか思い当たらない。あせってさがし回る必要もなかった。家出したねこをみつけるよりはたやすいだろう。 昔から大事なものの少ないこどもだ。いつでも身軽で自由にしている。歳を重ねるごとにそういう傾向が強まっているようだった。 そのかわり大切にしているものへの執着がひどい。並盛の町や中学校へのそれだ。 (俺もそうなりたかったんだよなあ) うらやましかった。 むかしむかしそうなりたいと願っていた。雲雀の大切なものに。執着されてそのぶん甘やかして大事にしたくてたまらなかった。 いつしかその気持ちを手放したときのことは思い出せず、雲雀がそばにいれば町や学校なんかよりもっとぎゅっとつよく雲雀を抱きしめてやれるのになあというきもちばかりが今もよみがえる。 (いや、ちげーだろ) 消えかけたともし火がただ再燃するのとは違う。ぐずぐずくすぶっているだけのものでもない。いつも新しいきもちも同時にあった。雲雀を目の前にするとディーノの内側にはいつでも新芽が芽吹くようにぽつんとそういう気がむずむずわいてくる。それにそのうち塗りつぶされてしまう。雲雀にまつわるこころもちは持続と突発を兼ね備えているからたちが悪いのだ。 思い出した。 古ぼけた階段の手すりをなぞりながら階段をのぼる。こどもの通う学校だ。階段の段差の小ささに転びそうになって、踊り場でだらだら休み休み屋上へ向かった。非常灯しかつかない深夜の学校は暗く静まりかえっている。雲雀へはもうずっとたどりつけない気がした。 (いばらひめみてえ) 校舎のお城に階段のつる草。おもちゃのもろさではごっこ遊びにもならない。そこまで雲雀に夢をみているわけでない。キスで目が覚めるほど繊細ではないだろう。どちらかというと図太い。図太くてずうずうしいくせにかわいいからいけない。 (顔がみてえな) 雲雀にあいたくなった。今すぐ会ってそれから。 (とにかく今すぐ) それからどうするかはそのときでいい。階段を二段飛ばしでさっそくよろめきながら走り出した。 |