バニラの森(090403)






雲雀がディーノをじっと見ている。
きれいなアーチの眉はつりあがって、やわらかいくちびるはいつ口火を切ろうかと引き結ばれていた。
ディーノは気付かないふりをしていたけどここらがまあ潮時だと思う。観念した。
「……なに?きょーや」
ただ往生際の悪いことだ。あわよくば上目遣いで雲雀の怒りをやわらげたい。なんだかんだでディーノの容姿は雲雀に嫌われてはいないことを知っていた。
「……またこぼしてる」
「あ」
えへへ、とさも今気づきましたと言わんばかりに照れてみせる。雲雀はぶん殴ろうか罵声をあびせようかちょっとだけ迷ったようだったけど、結局何も言わずためいきをついた。
ずいぶんまるくなったものだ。たぶん本人が一番そう思っているだろう。
「ほんとうにどうしょうもないね。」
「だってよー……」
「こんなものを食べていてどうしてこんな惨状になるのか何度見ててもふしぎだよ。」
わからないと雲雀はかぶりをふった。ついでにたたみのうえのくずを手ですこしはらってあつめた。申し訳なく思いつつディーノはまほうの指先をみつめている。きれいにくずをあつめるものだ。
ディーノだってわからない。おいしく食べているといつのまにかそうなっているのだから雲雀の言うとおりしょうがない。ロマーリオといるときはいい。もしくは大勢の部下と。雲雀といるときが特にひどいかもしれなかった。気がゆるんでいるのかもしれない。
「だってバームクーヘンだよ。こんなにかんたんにちぎって食べれるじゃないか。」
どこかからおみやげにもらった。ディーノの手の中にあるしっとりしたかたまりを雲雀はやんわりとりあげる。雲雀の手の中で生地はほろりとかんたんに割れてふたつになった。そのかたわれが雲雀の口へ放りこまれるのをディーノは見ている。
雲雀はほんとうにきれいに食べた。租借する動きまでむだのないことでディーノはうっかりみとれている。
「恭弥、うまそう」
「おいしいよ」
ユーハイムだからねと雲雀は満足そうだった。メイドイン日本がすきな人だ。
バームクーヘンもこんなにきれいに食べられて本望だろうと思う。うすい一枚一枚を積み重ねてきたかいがあるというものだ。
きつね色とクリーム色のしましま。いちばん内側から円周までをひとくちに。ディーノもそうなりたくなった。
「俺も」
恭弥、とくろい着物のそでをひいてねだる。
「たべたいの」
こくこくうなずくと雲雀はいいよ、と言った。ゆびのあわいのあまい重なりがディーノのうすく開いたくちびるに押しあたってそれからひとさしゆびで押しこまれる。ほのかにこげたにがみと舌先にやらかい味がした。
もぐもぐする。
ねっころがって食べたさっきよりもおいしい気がした。
「じょうずにたべれたじゃない」
雲雀はすこしわらって、そうして視線を手元に戻す。もっとほめてほしくてディーノは雲雀のほそい肩にそーっとしなだれかかった。
順にきちんと積み重なったバームクーヘンのようにじょうずに重なれてはいなかったかもしれない。なにせ厚みも大きさもディーノと雲雀ではてんで違う。
それでも雲雀はディーノをふんわりなでた。幸福はいびつなかたちでもかまわない。ふわふわやさしく、なだめられている。