いただいたバトンでディノヒバ妄想を楽しみました。(090408-090521) 【我慢の限界バトン】 あなたの我慢の限界をチェック。 ◆全く気にならない…『◎』 ◆許容範囲内だけど少しだけモヤモヤ…『〇』 ◆口には出さないけど内心ムカムカ…『△』 ◆我慢の限界!許せない!…『×』 でお答え下さい。 ■並んでいたら横から割り込まれた→◎ 「……ちょっと」 どんと肩をはじかれよろめいた雲雀からかわいい顔に不似合いな不機嫌きわまりない声が出る。 「こーら恭弥」 雲雀にぶつかったことに気付かない若いイタリア人のカップルは会話に夢中らしい。悪気はないのだろう。それでもほそい指先は金属のかたまりを握りかけたので、ディーノはやんわりとどめ手に手をからめた。 「じゃましないで」 「だーめ。わざとじゃねーの、解んだろ?」 きつくねめつけてくる目線をはずし、片腕で雲雀のからだをひっぱってそのまま腕にぎゅーと抱きこむ。 ディーノの方が雲雀よりうんと背も高くからだの線もしっかりしているのにまるでこどもが抱きつくようなやりようだ。 思わず雲雀のやる気も削がれる。 「……だからこんな群れてる場所に来るのはいやだって言ったんだ」 「だってよー今年やっとこ見れるくらいの並木になったんだぜ?な、もうちょっとだからがまんして。恭弥と一緒に見てーの」 「僕の知ったことじゃないね」 ディーノはかわいくねーと言いながら楽しそうにしている。おとなのくせこどもっぽい腕にぎゅうぎゅうされて雲雀は視界もおおむねふさがれていた。 群れの気配は不愉快だけどさほどでもない気がしてきてまったくほだされている。もしくはかつてかかった病気のせいに違いないと思った。桜を見ると今でもほんのすこし目がくらむ。 「むだに広い敷地だね。ちっとも知らなかった。」 「だってないしょにしてたんだからあたりまえだろ?」 ディーノがわらって、それがふわりと春の風になる。前髪の生え際をくすぐって消えていった。 「だいたいあなたの土地にあなたが植えたあなたの木なのに、どうしてそれを見るためにこんなとこに並んでるのかさっぱりわからない」 雲雀が並盛をはなれイタリアに来た記念にディーノがキャバッローネのシマの河畔に植樹し、苗木をせっせせっせと育てていたらしい。 誰がどう考えてもディーノのものだ。ディーノがすきに見ればいいのに。 そうこぼしたら密着していたからだをほんのすこし離された。 目を細めてそっとわらっている。 「ばかだなあ」 解放された視界のなか、白がほんのり上気したようなあんまりうつくしい色のなかにディーノがいた。 「並んでる時間が長けりゃこーやって恭弥と一緒にいれる時間が長くなるんだぜ。」 「……あなたのほうがばかだよ」 両手を割れ物をつつむようにとられても振り払うことができない。ばかなどと言われおとなしくしているのはひとえにディーノがきらきらしているせいだと思った。きらきらすぎてまぶしくていけない。みとれている。 さらさらあわい風に流れるはなびらがきんいろに反射してひかりの粒にとけていった。ディーノのほほはさくらいろに染まっている。はなびらの中へとけてしまうのかもしれない。 「あなたに飽きて僕がここからいなくなったらどうするつもりだったの」 何百本もの木だ。たかだか記念植樹にしては手間も人手もかかりすぎる。金持ちはこんなところにしか使い道がないのかもしれない。 「バカには違いねーけどさ」 「そうだよ」 「でも恭弥、ここにいるだろ」 ディーノがわらって風が吹いた。 いちめん、桜色と金色と水色とうつくしいものにまみれている。まぶたを持ち上げていることがむずかしくて雲雀は目をつむった。 つながった手のぬくもりの色はこんなふうかもしれない。しつこい温度は今も昔も、手がはなれても距離をおいてもどこまでも雲雀にまとわりついてきた。 いまいましく、けれどふりほどくことのないあたたかさで雲雀の内側もディーノでみちている。 ■注文した料理に店員の指が入っていた⇒◎ 「僕は味噌汁が飲みたいって言ったんだけど」 「………………立派な味噌汁じゃねーか」 「味噌汁に謝りなよ」 「ちょっと味噌が焦げただけだろ!」 「よく言うね。汁が少なすぎるうえ、この具はなに?ウインナーとレタスってスープじゃないんだよ。まったくあなたに任せるとろくなことがない。キッチンはぐちゃぐちゃだし、あれもうリフォームするしかないよ。明日コックが休暇から帰ってきたら卒倒するね。」 「……ウインナーうまいじゃねーか」 コックのくだりに言い返してこないあたりリフォームの算段はつけたらしかった。 「馬鹿言いなよ。あなたの指かと思った。」 「おえ……恭弥それはぐろいぜ……今から食うとこなんだからよー……」 ディーノはほんとうにきもちわるそうな顔をしている。まったくマフィアのボスのくせに情けない。雲雀はため息をついた。とにかくもう食事をすることにする。コックもおらず、深夜に店はバールくらいしか開いていない。だいたいインスタント味噌汁なんてキャバッローネの屋敷にはないし、ごはんをむだにするのは雲雀の主義に反する。 「まあ、あなたの指がちょん切れてたら味噌汁の中から探し出して僕がくっつけてあげるよ」 裁縫は得意だからねと言ってからひとくち味噌汁らしきものを口に含むとやはりしょっぱかった。味噌がこげて水分がやたらに少ない。ほとんど塩水だ。 (……海水?) あまりの塩分に箸を置こうと思うけど、ディーノが困ったような笑い出しそうな、なんだかもごもご微妙な顔をしてそれからありがとな、と言うものだからなんだかもうどうでもいいかという気になった。 「へへ、……いただきます」 「……」 「しょっぺえ!!!」 ずず、と雲雀とディーノが同時に味噌汁をすする。雲雀に遅れて一口目を飲んだディーノは行儀悪く味噌汁を噴き出しむせていた。 「恭弥!言えよな!」 「だから言ったんだ」 「うえー……こりゃ食えねえよ……」 すてよう、とディーノは目に見えてしょんぼりしている。しゅるしゅるちいさくなってしまいそうだった。実際肩身狭くしてちいさくなっている。 「ふ」 「なに笑ってんだよ」 それがおかしくてちょっとわらった。昔飼っていた犬みたいなのだ。 「……水足しておじやにしようか」 「え」 おわんを手に席を立ってキッチンへ行くことにする。扉の前で振り返るとディーノはぽかんと座っていた。 おいで、と手招きするとあたふた立ち上がってこけそうになっている。 雲雀のところへ来るまでのたった数メートルでよほどの時間がかかることだろう。雲雀はそれを、ドアにもたれ待っている。 ■楽しみに取っておいたおやつを食べられた⇒◎ 「きょう、ぶっ」 「前々から図々しいとは思ってたけど今日という今日は許さないよ」 「なにすんだいきなり!!!」 「とぼけないで」 「お前こそぶっそうなもんしまえ!」 「応接室に自由に出入りする人間なんて限られてるんだ」 「だから!」 「草壁はまさかやらないしね」 「だーかーらー!」 「となると残りはあなたしかいないよ」 「なんのことだよ!」 「胸に手を当てて聞いてごらん」 「当てたら脳天がこのまま割られんだろ!」 「願ったり叶ったりじゃないか」 「おまえだけな!」 「そのしろい粉のついた手を離しなよ。」 「しろい粉……?!」 「とぼけないで。米粉だろ。全身粉まみれでよくそんな白々しくとぼけられるもんだね。感心する。」 「ちっげーよ!なんだ、コメコって!コメッコかよ!」 「大福のまわりにまぶしてある粉だよ。「はしもと」の大福は午前中に売り切れるんだ。貴重なんだよ。早く認めれば。」 「大福……?!」 「ちゃおっす、ヒバリ。なにやってんだ?」 「リボーン!」 「ワオ。赤ん坊。今取り込み中だよ」 「そのよーだな。しかし情けねーなへなちょこ」 「この人の頭を割ったらお茶でも入れるよ」 「そりゃありがてー。だが今はちょっと時間がねーんだ。ツナの修行中でな。明日会合で応接を使いてえって伝えにきただけだ。頼むぜ。」 「赤ん坊の頼みなら仕方ないね。いいよ」 「おいおまえら!」 「すまねーな」 「今度戦ってよ」 「考えとくぜ。あ、そういやさっきそこの机の茶菓子は失敬したぜ、ヒバリ。チャオ」 「…………」 「…………」 「……」 「……あなた、その白い粉はなに。」 「これはさっき運動場でラインカーにぶつかって中のチョークぶちまけたやつが……」 ■上司(先生)に理不尽な理由で叱られた⇒◎ 「ばかっ!」 「なに、おもむろに突進してきてその言い草。」 「おまえっ………………っ!」 「なに。いいおとなが泣かないでよ」 「きょうやあ……!」 膝立ちになったディーノは雲雀の腰にしがみついてえーんとちいさなこどものように泣いている。パジャマを着たまま寝癖もつけっぱなしでなんともまぬけではある。 「ほんとなんなの。鼻水がスーツにしみるだろ。」 「ひょうや……えぐっ……ジャッポーネの童謡ってのはおそろしいぜ……」 「……ああ、昨日の。」 「ぜってー異人さんについてくなよ……」 「あなた、自分のことだよ。僕を誘拐したこと忘れたの。よくそんなこと言えるね」 ディーノはこたえず、えっくえっくとしゃくりあげている。ちょっとかわいそうな気になった。 かわいいディーノがかわいそうなのだ。冷たく呆れながらもなんだか雲雀はうずうずして腰にまとわりつくディーノのあたまを小鳥かはりねずみをさわる手付きでなでなでした。 「なあロマーリオ、あれなんだ?」 「ん?ボスか?」 「朝から激しいな」 「まったく平和な証拠だぜ。……昨日のボンゴレの会合で『赤い靴』って童謡を教わったらしい。」 「へえ……」 「まあかこつけて甘えてるだけに見えるけどな」 「……へえ…………」 ■参観日に親が張り切りすぎのギラギラスーツで登場⇒◎ 春眠は暁を覚えず雲雀は春の花の木の下ですやすやしていた。 授業中だけれども今体育の組はなく校庭は吹き抜けのように誰もいない。ほこりっぽくしんと静かだけど春の陽気に空気までがそわそわとさざめいている。 日光をさえぎる枝葉のあわいからきらきらとまぶしい光がこぼれては消え、またこぼれおちた。そのなんともここちのいい風にあおられて降ってくる花びらがほほをなでては飛んでいく。 こしょこしょとほほをくすぐられているようで雲雀はかすかに身じろいだ。ちょっと前にかかった病気のせいで、桜があるところにいるとぼうっとするようだった。 ただしそれも今はどうでもいいことだ。うつくしく並盛をいろどる桜色があって雲雀は眠い。いつもとさして変わりばえもしないからそう気にもならなかった。 春の午後はいっそうとろとろ気持ちがよく、雲雀はすうすう寝息を立てている。 「……ん」 うすくあわい花びらにしてはいくらか質量のあるものにふんわりほほをなぜられていた。 「……?」 「あ。起きた」 ねむたいまぶたをのろのろもちあげると知らないわけではないきんいろがほのほのとわらっている。 「授業さぼんなよなーおまえ」 雲雀の黒い髪を、ほそくながい指先が持ち上げたりしゅるしゅるもてあそんだりする。 スーツの袖口のカフスがちかりとひかりを反射して雲雀は目をつむった。しぱしぱする。 「なに。その服」 「おー?今日は参観日ってロマーリオに聞いてたからめかし込んで来たんだよ」 「……頼んでない」 「なのに教室行ったらおまえいねーし」 ディーノは雲雀の文句を流し流しぷうとほっぺたをふくらせた。 ばかっぽいくせに、そういう顔までさまになってしまうのはやらかくなでつけられた前髪となにやら新調したらしい服のせいだ。 布の織りになどこれっぽっちも興味のない雲雀が見てもうつくしくやたら光沢があるこんなものマフィアのボス以外でどんな職業のものが着れるだろう。 しかもたちの悪いことにそれがやたら似合っていていつも頭だけがきらきらしているだけでもうっとうしいのに今日は頭のてっぺんからつまさきまできらきらしている。 こんな出で立ちで堂々と教室に顔を出したのかと思うとむずむずむかむかしてしょうがなかった。 まったくたちがわるい。 「風紀が乱れる」 雲雀は寝そべったままころりと転がってからだの下から上着をひっぱり出しディーノにかぶせた。いるだけで風紀を乱すのだから隠すしかない。ついでに固まったあたまもくしゃくしゃ乱してくちゃくちゃにしてやった。 「こら。髪が乱れんだろー」 「……そっちのがいいよ」 くちゃくちゃでもきらきらしていて困ってしまう。制服を頭までかぶせて上からくるみこんで抱きしめた。 「……これでいい」 抱き枕としてはわるくない。またとろとろねむたくなる。ディーノがくるしい、とわらった。かくしてしまっておきたくなった。 ■家に招いた友人の足がありえない臭さ⇒◎ 「よっ恭弥〜」 障子が情緒のかけらもなく開いて、しっとりした日本の梅雨には不似合いなけたたましいはなやかさのまるでおひさまみたいな男が顔を出した。 「またあなた勝手に人のあじと……に…………」 「ん?」 「…………」 「なに?むつかしー顔してどーしたんだよ」 雲雀はむっと眉をひそめ口元にてのひらをやっている。 「…………足」 「あし?」 「足を。洗ってきたら。」 「……」 ぽつりとこぼれた声が嫌そうというよりは切実なかんじだったのでディーノは何をか察して悲しくなってしまって、「はい……」とよいこのお返事ですごすご浴室へ向かった。 「……そんなにひどかった?」 「ひどい。新手の兵器かと思った。」 しとしと振る雨にびちょびちょに濡れた靴で長時間うろうろしたのち雲雀のあじとへ来たので多少はやばいかなーとディーノ自身も思っていたけどそこまで言われるとちょっときまずい。 「雨と加齢臭が合わさって余計ひどかったんだね。昔は雨に濡れてもそれほどじゃなかった。」 「ひでえ……」 「なにがひどいの。そんなあなたをここへ上げてあげてるんだよ。むしろ感謝しなよ。」 「……うう」 確かにディーノももういい年ではある。まだ十五だったこどもがとっくに成人して今や三十路を迎えようかというころだから当然だった。雲雀自身は相変わらずいつでも好きな年齢のようだったけど。 「なに。何か文句があるの」 「…………ないけど。」 ぱらぱらと雲雀がゆったり書類をめくる音が雨の音にまじっている。 おとなになってきゃしゃすぎる感じはうすくなったけどそれでもディーノに比べればほっそりしたからだだ。横からながめていると余計にその印象が強いままで、ディーノは折ってしまわないようそろそろ肩へもたれた。 一瞬力が入った雲雀の肩からすぐに力が抜けたのがわかる。 やさしい反射はこどものころにはなかったもので、積み重なった時間のことを思うとディーノの喉の奥はきゅんとあまくせつなくなった。 「恭弥は体臭ねーなあ……」 すん、とあまえて鼻をならす。清潔なせっけんのにおいがしてにおいだけは昔からこんなだったと頭の内側でそっと遠い時間をたどった。まるでかわらないかおりだ。目をつむれば十五の子がいるようでなつかしくもなる。 「そうかもね」 ただ声はいくらかも低く落ち着いて、薄目をあけると視界の端にうつる指もおとなの男らしく節ばって甲には筋が浮いている。 書類をめくることをあきらめたらしい手が畳のうえへ紙の束を置いて着物のそでへひっこみそうになったからやわりとむすんだ。 やっぱりおとなのてのひらには違いない。 「おっきくなったなあ」 「なに。やぶからぼうに。」 「ん?こどもだったのになあって。」 「おかしなこと言うね」 「おかしくねーよ」 ディーノがぎゅっとつなぐとそのぶん雲雀からは力が抜けて手の中でなじんでいく。そのやわらかさにどきどきして肩にのせていた頭を起こして雲雀を見た。 「恭弥」 梅雨の空気に湿ったくろいひとみだ。食べてしまいたくなる。 「かわいい」 「うれしくない」 「かわいいもんはしょーがねえ。」 「……それはそうだね。」 雲雀はふむ、とちょっとだけ視線をずらして考えてから頷いた。 「あなたもかわいいよ。」 「ずっと見てたいなあ」 「そう」 「しわが寄ってく数まで数えたい。目が悪くなってくのも、歳とって指先がしわくちゃになってくのも。ぜんぶ。」 全部だ、とディーノは雲雀に言い聞かせるように言う。小さいこどもにするような態度はもうどうにも矯正しようのないものかもしれなかった。 「欲張りだね」 「おう、俺はよくばりだぜ。……恭弥はほんと、いつかわいくなくなってくれんだろうなあ。」 「それも見たい?」 「うん。……でもかわいくなくなっても、かわいいんだ」 困ったなあとまるで困っていない口調でディーノがわらう。 「先のことはわからないよ」 「いーやわかるぜ。」 「いいかげんだな」 「ちげーよ。愛だ。」 「しょうがないひとだね」 雲雀は、浴室で洗ってはだしのまま放り出されたディーノの足先をながめた。爪のかたちを視線でなぞっている。かわいくないものまでかわいいのだからしょうがない。確かにそのとおりだった。 ■トイレを貸したら致命的なまでに汚された⇒◎ 「いつものことだけど」 「……ごめんなさい」 「ひどいね」 「……ミスった」 「もういい」 トイレの引き戸を開けたら巻き取りそこねほぐれたトイレットペーパーがふわふわなだれのようにあふれてきた。雲雀には、どうしたらこんなふうになるのかいまだによくわからない。 はたしてミスったなどという種類のものなのかもよくわからない。 だって毎回だ。トイレに行くと言ったらディーノがあからさまに「やべえ!」というような顔をしたのでおおかたの予想はしていたけどやはりこれはひどい。 そう思いながら、端からくるくる、ふたりで手にトイレットペーパーを巻き取っている。 ディーノはぶちぶちとペーパーをちぎりながら巻いているのであちら側は使い物にならないだろう。 ディーノは楽しそうだ。楽しそうなディーノを見ていると雲雀もちょっとだけそわそわするのだからやっぱりひどい。 しゅるしゅるしゅるしゅる、うぐいす張りの廊下にちいさく紙のこすれる音がしている。 ■誰にも知られたくない事を皆の前でバラされた⇒◎ 「恭弥〜!なにやってんだおまえ!」 草食動物と群れ群れで桜の木の下でにこにこしているディーノが能天気に声をかけてきた。 しかもけっこうな遠方からだ。あまったるい声がのどかな休日午後の並盛河川敷に響いてまるで風紀が乱れている気になる。 今すぐ殴りつけて地面と仲良くさせてやりたいきもちはあるものの、しかして雲雀は桜のもとではどうにもいつもの調子もでないものでめんどうだしだるいしねむたいし無視することにした。 これというのもディーノのホテルの部屋を早朝に辞してきたのが悪い。何時間か前に見たばかりの間抜けな寝顔がもやもやよみがえると足腰もちょっとだけうずうずした。 プイとべつの昼寝の場所へ向かう。雲雀には並盛の昼寝スポットなど河川敷でなくともどこにでもある。足取りはふらりふらりと自分でもおぼつかなげだった。歩くのはめんどうにも思えたし、桜の花びらの中ならそう悪くない気もする。 「待てって。どこ行くんだよ」 「…………なに。さわらないで」 「朝も起きたらいなくなってっしよー……」 身軽な格好のディーノにきゅうと腕をとられて引き寄せられる。ふらつく足元のせいでかんたんにディーノの方へ倒れるようなかっこうになってしまった。こんなきらきらしい気配が近付いてきたのに気づかないなんてあまりに呆けている。 それと桜の花びらのはなやかなのがいけない。ディーノのはなやかな気配とまじってそれをかき消してしまう、いつもならただうつくしく並盛を覆うだけの花の嵐がちょっとうっとうしかった。 「な、さくらもち食おうぜ。ツナのママンが作ってくれたんだよ」 「……」 「恭弥のぶんもあるぜ」 「……」 「やだ?」 「……群れてるのはいやだ」 でもさくらもちはちょっといいなと思った。 「わがまま言うなって」 「言ってない」 「ったくおまえはしょーがねーのなあ……」 「文句があるの」 「ねーよ。でもほら、ツナたちんとこまで行かなきゃ食えねーのはわかんだろ?」 「いやだ」 「もーおまえは!」 ぎゅうぎゅうされて苦しい。 ディーノはいつだってばかみたいに雲雀をかわいがる。 「わかったわかった。じゃあここでちょーっと待とうな」 「?」 雲雀がほっぺたをくっつけている胸元からごそごそ何をか取り出したディーノは、腕の中でくったりねむそうな雲雀ごとやわい芝生にしゃがみこんで地面にそっとそれを放した。 膝を折ると雲雀はもうだめでうとうとよけいにねむたい。 「エンツィオの背中にさくらもちのっけてきてもらおうぜ」 「……何時間かかるの」 なにせ亀だ。日が暮れてしまう。 とろとろ、ディーノの体にもたれかかっていることさえもだるく膝のうえにくずれおちた。 「おわ、」 あわてたてのひらにまるこいあたまを受け止められて膝のうえにきちんと乗っけられる。 ディーノの膝がさして悪くないまくらだということは知っているので好きにさせておいた。 「かわいいきょうや」 とにかくねむくていけない。 「すげーすきだ。かわいい。すき。だいすき。恭弥。」 たわごともいつものことなので放っておく。こもりうた程度のことだ。 「……あ、ツナー!!!恭弥寝ちまったからバトミントン俺はこっから見てるな!」 わかりましたー、と響く草食動物の声も同じに雲雀を眠くさせる。んなやつほっとけ馬!とか、ディーノさんとミントンやりたかったなーとか校則違反の常連の声も聞こえた。 (……タバコとネクタイ。) 「わりーなー!けど恭弥が足腰ふらついてんの俺のせーだし!ちゃんと見てっからなー!」 ふわふわ、腰の辺りをさすられてそれもきもちがいい。 (……バカ馬) やさしげな手がわずかに動きを止める。草食動物が微妙な顔でもしたのだろう。もとより雲雀にはどうでもいいことだ。 「俺と恭弥のないしょなのに!」 マフィアのボスのくせにばかでスキだらけのきらきらがなんてこった!とすねた口ぶりでひとり悔しがっている。 ひとりじょうずだ。ふれているどこもかしこもふわふわきもちよくて雲雀は自業自得だとあざけることさえ放棄している。 ■登り階段で前の人から顔面におならを浴びせられた⇒◎ 「ミスった!!!」 「ぶっ……!」 「ぎゃっ……!」 「十代目っ?!」 「うお、あぶねーのな」 「…………」 「…………」 「…………」 「……」 「……」 「……あなた最低だよ。人の顔に」 「わりーわりー……足がすべってケツの穴もゆるんじまった……昨日イモ食ったしなー」 「イモごときでゆるめないで。」 「雲雀さ……」 「お前も食ったくせに!」 「あなたと一緒にしないで」 「よく言うぜ。二本は食っただろ」 「……だいたいなんでこんな狭い階段に群れてるのさ」 「しょうがねーだろ!リボーンの思いつきに最初に乗ったのおまえだぞ恭弥!」 「うるさいね。それとこれとは別の問題だ。まったく最悪だよ」 「もーわがまま言わねえの!早いとここんなおっかねーとこ出ようぜ。夜の学校の非常階段なんてさー気味悪い」 「そこは同感だね」 「だろ?」 「ヒバ……」 「十代目どうされました?!」 「ツナ白目むいてねえ?……ってディーノさんけっこうくせーっす。残り香が……」 「ははっわりーわりーイモがな!」 「ヒ……」 「うるさい。」 「十代目!?ヒバリ!てめー十代目を足蹴にするたーいい度胸だ!」 (山本……それ、ディーノさんっていうか雲雀さんだよ……) 死んでも言えない綱吉ではある。 ■待ち合わせで相手が遅刻。理由は『お洒落に手間取って』⇒◎ いいきぶんで眠っているというのにへなちょこはまったく空気を読まない。 「きょうやー……」 そろそろ近寄ってくるふわふわの気配はそわそわと落ち着かないで、それでいて雲雀を起こそうとするからたちのわるい。 「なあ恭弥」 「……」 立夏をこえて一年でいちばんきもちのいい季節は短く眠気はとだえない。夕暮れの空は青とオレンジがまじってしろいお月さまがぽっかり浮かんで絵本みたいにかんぺきな。雲雀はうっとり目をつむったままでいる。 眠りなれた応接室のソファはゆりかごのようにここちよくもうディーノなんて無視して眠ってしまいたい。 「きょーうやー約束忘れたのかよ?」 ふにゅんとほっぺたにふれられて、走ってきたのだろう指先はずいぶん熱っぽい。ふ、と吐き出された息もいくぶんせわしなく首筋をくすぐった。 「ハンバーグ食いに行くんだろー?」 ついでにほこりっぽいのはまたどこかでこけたのだ。へなちょこめ。 ともかく今は食事より睡眠だということをディーノは理解するべきだと不愉快におもう。 雲雀は約束などしたことも忘れてもうどこかへ行けと虫をはらうようにディーノの指をてのひらではらった。 「起きてんなら返事しろよなー」 こらこらとディーノは懲りるでもなくまた雲雀をふにふにしてくる。本格的に邪魔をするらしい。 「なー恭弥って……」 ディーノの思い通りになる雲雀ではない。むかむかしてもう絶対目を開けるものかと雲雀は眠気に集中する。百のうち九十七くらいは根性でなんとかなるのだ。ディーノはなんだかごそごそやっているけど知ったことではない。 二人分にしてはせまいソファのうえをぎゅうぎゅう背もたれのほうに押されてそれでもまぶたを開いてなどやらない。 「きょーうやー」 そのうちにディーノの気配はひどくなって、歌うみたいなしあわせな声は耳たぶのすぐそばに移動して近すぎてもうなんだかよくわからなくなった。ディーノも雲雀に倣って寝そべったらしい。 接している面積が広すぎる。とろとろ髪をなでられているような気もするけどそうしたらねむくてきもちよくて確認もできなかった。 「……」 もぞもぞ動いて目をあけると真っ暗で、まばたきをする。あたまのうしろの重みがふと軽くなってみるとなんてことはない、ディーノの胸元に顔を押し付けられていただけだった。 応接室の輪郭はすっかりのぼりきった月のしずかなひかりと、向かいの校舎の四階廊下からこぼれる非常灯のほのかなあかりとでぼんやり浮かび上がっている。 「やーっと起きたなあ」 ねすぎ、とやらかい顔をしたディーノがやらかい声で言う。こんなにぼんやりした中でディーノだけがあまりにはっきりしたかたちを持っていて雲雀はなんだかふしぎな気がした。 ふしぎだと思えば黙っている雲雀でもなく何とはなしにとりあえずぺたりと顔をさわって確かめてみる。さわれば、表情よりずっと細やかな筋肉のうごきでディーノがどんなふうにわらっているかがわかった。 ふにふに、眠る前にされた仕返しみたくひっぱっているとそのうちにぐう、とおなかが鳴り出して忘れていた食欲がよみがえってくる。 「おなかすいた」 「だーからメシ食いに行こうって俺は誘ったぜ」 「僕が起きてるうちに来ないあなたが悪い」 口に出すとほしがるきもちははっきり欲求になっていっそディーノのほっぺたでもいいのでかみついてみたくなった。何か口に入れねばならない。 「……確かにちょっと遅れたけどよ」 「どうせそこらじゅうでこけてたんだろ」 「…………ちっげーよ。だってほら、恭弥と久しぶりのデートだろ?」 「どの口が。」 がじりとためしにくちびるにかみつくとディーノはなんだか目をぱちくりした。色のうすいきれいな目は。 「……おめかしに手間取ってさ」 たしかにきらきらしている。 ■自分からぶつかってきたクセに舌打ちされた⇒◎ かわいい眉間にしわを寄せたかわいいこどもがずんずん近づいてきてディーノの鎖骨にごつんとぶつかってきた。 ディーノはあわてて手に持っていた書類を腕ごと持ち上げてからだの前面を空けたけれどあとすこし雲雀の背が高ければおとがいに頭突かれているところだ。顎は急所。あぶない。 なにしろかわいい教え子は突拍子もないのであまり無防備にしているのは考えものなのだ。 「こらこらーぶつかったらごめんなさい、だろー?」 「うるさい」 ちっとみじかく舌打たれて、それでも憎くは思えないのだからディーノもいけない。 お説教はしなければと思うのだけれども雲雀がディーノのそばへ自分から寄ってくるなんてあまり無いことでついついかわいいなあと甘やかしてしまうのだからほんとうにいけない。 「どした?」 「……」 雲雀はなんにも言わないでぐりぐり顔を押し付けてくる。それがまたひどくめずらしいのでディーノは手に持った紙をそっと床にすべらせて雲雀のまだちいさな背をなでた。 紙切れか雲雀かと言われればそれはもう比べようもない。 まだすっぽり見下ろせるつむじにほほを寄せて背骨のおうとつをひとつずつたどるようになでた。 警戒心の強いのらねこにするみたいにゆっくりそろそろ。 窓から吹き込む風がディーノの髪をゆらして、床に落ちたままの紙を部屋のすみっこへ追いやる。かさかさかすかな音は返す波と同じに遠ざかった。 ふたりきりの部屋にはほかになんの音もない。雲雀にはディーノのことことゆれる心臓の音が聞こえているだろうかと思う。 「ここのところ」 「うん」 「いらいらさせられることが多かったんだよ」 「うん」 「なんとかしなよ」 ディーノの胸元で憤慨しているらしい声のくぐもりさえいとおしかった。 「疲れたんだ」 「……うん」 そろりと力を込めたらそのぶん雲雀の背筋からは力が抜ける。 いつなんどきも何の助けもほしいとも思わない雲雀だ。ひとりでちっとも平気で、そういうたちも含めてディーノは雲雀が好ましい。けれどこれはどうだろうと思う。 雲雀は気の赴くままにしていることできっと何も考えてもいないのだろうけれど。 ディーノの内側にこんなにかんたんにあたたかな火をともすから。調子に乗ってディーノはぎゅうぎゅうだきしめた。 だきしめたら。 ■回す人 アンカー。ディノヒバだと何でも許せるなあ……楽しかったです。ありがとうございました。 |