寄らばもんじゅの知恵(090401)




ささいなことでけんかをする。けんかをしない日などたぶんないのだ。
「あなたはほんとに勝手すぎる」
「おまえにいわれたくねー!」
「まったく不愉快だよ」
「そりゃ俺のせりふだ」
「もういい。寝る。」
「待て待て待てまだ話終わってねーぞ」
「寝る。ねむい。ばか。馬。しね。」
「ちょっと待てって!」
今にも飛びかかってきそうな前のめりの剣幕を利用して腕をつかみたやすく雲雀は自 分の手元へ引き寄せた。
「ん、…………」
今ののしり合ったばかりの、お互いちっともかわいくないくちびる同士がぶつかる。 ぬるい体温がふれあってちりりと発火しそうになった。
「おやすみ」
「……なんだよ。」
「なんで毎日あきもせずけんかできるかわかる?」
「……キスでごまかされねーぞ。うれしーけど!」
「……ばかだね。明日もけんかしたきゃいやでもとにかく今日終わらせなきゃいけな いんだよ。」
分かり合えない場所を、手を伸ばしてくちびるをくっつけてあるいは別の方法で埋め るしかない。ふたつのいきものがすべておなじにはなれないからそうやって。
雲雀はディーノにまたふれた。
「けんかができないとうっぷんがたまるよ。寝首をかかれたい?」
「……そりゃだめだ。」
陰湿なのはいけない。性にもあわない。
「そうだろ」
そもそも毎日けんかしなければがまんならないほど合わない。なにもかも。ごはんの食べかたひとつ、入浴の順番ひとつ気に食わない。
それなのに一緒にいる。おかしなことで、でもそれがあたりまえでもうはじめからゆるしているのだ。
ゆるせないということを、とっくにゆるしている。
ふたりしてそのすきまをうずめる方法を今日も考えている。





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いろいろコレクション(090401)




「恭弥ーこっちも!こっちも着てみろよ!」
「あなたはこっちも似合いそうだね」
「ええー俺そんなかわいい系にあわねー。まあ俺のははいーからさ。ほら、見ろよこ のジャケット。ぜってー恭弥にぴったりだって。な?着てみせて。」
「……かわいいといけないの。あなたはかわいいから似合うはずだ」
「てれる!まーまーそれよりこっち見ろって〜このネイビーよくねえ?恭弥はかっこ よくてかわいいからさ〜なんでも似合って困るよなぁ……」
「このタイもなかなかいいね。」
「ちょ、押し付けんな!このスーツ!これ見て!見て!ってかこの柄すげーのな…… ペイズリーで赤って……」
「うるさいな。他の客に迷惑だよ。あなた派手な顔だからこれきっと似合うよ。」
「え〜……まあ恭弥が言うなら……」
「ほら、おとなしくして。」
「……」
「どう?」
「……お、なかなか……意外と目立たねーのな。へへ。いい?にあう?」
「悪くないね。こっちもいいと思うよ。ほらこの花柄のとか。シャツも着てみなよ。 」
「おー……ってまずこっち着ろって。おまえ!」
「うるさい。僕の言う通り着てみせなよ。ほら、まだこんなに着てみるものがあるん だよ。たまにはグレーもいいと思うね。」
「おまえまだ一着しか着てねえじゃねーか。今度はお前!」
「だめ。これもこれもこれもさっさと着て。はやく。きっとかわいいよ。」
「俺だって恭弥のかっこいーのとかかわいーのとか見たい!」
「…………僕の言うことが聞けないならもうあなたと買い物になんて来ない。」
「…………そりゃねーよ……わかった、でもこれ全部着てたら日が暮れちまう。な、 交代にしようぜ。フィッティングも二部屋あるし。それ俺は一緒のとこでもぜんぜん いーけど!」
「……」
「んなろこつに嫌そうな顔すんな」
「……しかたないね。」

「……ボスよ。だから服は全部オーダーにしろっつったんだ。」





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ハニーベイビー(090331)




「あいかわらずかわいくねーじゃじゃ馬だけどな!」
ディーノがすこぶる明るくそう言い放ったのを耳にしたとたん、綱吉はおやと思った 。なんだか背筋がこそばゆい。
(あれ)
ぞくぞく、背骨をはいあがってくるむずむず。ディーノはにこにこしている。
(えっと)
半月に細められた目がみているのは綱吉でも獄寺でも山本でもリボーンでもない。
(あ)
かあっとほほがあつくなった。
(うわあ……)
「十代目!どうなさったんですか!なんかお顔が赤いです!」
「……なんでもないよ」
だいじょうぶ、と告げるくちびるも思わずわなないてしまうほど。ほほがあつい。こどきどきは、ディーノの心臓がうつってしまったものだろうかと思う。
(……かわいくてしょーがないんだ)
なんだかいたたまれなくなるくらいはずかしくなった。超直感のせいというよりは、あからさますぎるディーノのせいだ。





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かわいいひと(090330)




「きょうやー……」
「黙って」
「……」
「なあってば」
「うるさいな」
「……俺もさわりてえ」
「わがままはよしなよ。あなたもういい大人だよ。」
「……」
雲雀はもしゃもしゃ、腕に抱きこんだディーノの髪を乱している。
なでていると言えなくもない。
「俺だって触りてえ。恭弥をなでなでしてーの!」
だだっこのようにばたんばたんとあばれてみた。雲雀はそ知らぬ顔でよしよし、と背をなだめている。まるでやさしい手つきだ。
ディーノは長いすに靴をはいたまま転がった雲雀の足のあいだにいる。
場所が違えば非常に好ましいシチュエーションではあるけれど残念なことにディーノの足はキャバッローネの屋敷の年代物のいすにはおさまりきらず、まぬけに手すりからはみ出して宙に浮きつ沈みつぶらぶらふらふらしていた。
なんともぶかっこうではあるけれど雲雀は気にとめるでもない。
「冗談言いなよ」
「言ってねー!かわいい恭弥。おれにもさわらせて」
「僕が飽きてからね。順番だよ。」
「俺が恭弥を膝の上に乗せたらいいんじゃねえ?」
「しつこい。あなたが抱きしめてくると座高が違うんだから僕が満足にさわれないだろ。それにこの位置がいいんだよ。まるでわかってないね」
「わがまま……!」
「ほんとうるさいな。あなたがかわいいからこうしてるんだよ。自分のせいなんだからがまんしなよ」





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すき=きらい=キス(090329)




「なーなー恭弥!俺のどこがすき?」
真昼間の往来できんいろは恥ずかしげもなくにこにこ笑っている。春なんだなあと雲雀は眉をひそめた。あたたかくなると変質者が増える。いけないことだ。
「……」
「なーってば」
「食事中は静かにしなよ」
「食事じゃねーオヤツだ。ミスタードーナツはわいわい食うもんだろ!」
さっきから確かにひとりでにぎやかにわいわい食べている。山盛りのドーナツはまだみっつよっつと残っていた。さとうまみれのやつとかふわふわのやつとかクリームまみれのやつとか。食べるものまで本人に似ていてちょっといらいらする。
雲雀はオールドファッションが好きだった。かたくてちょっとさくさくでいい。
「うるさいな」
「どこがすきか一個だけでいいからさ〜教えてくれよ」
「しつこい。一個もなにもない。」
「ひでえ!じゃあ今考えて。」
「……」
「きょうや〜……」
ディーノは机に肘をくずし、さとうとアーモンドとチョコレートクランチが大量にまぶさったものを食べながら雲雀を見上げてくる。ぽろぽろぽろぽろ、口のはじからそのほとんどをこぼしているものだからまたいらいらした。まぶさっている意味がない。どうしようもない。でもちょっとおいしそうだなと思った。
「……」
「……なー……」
「……今はその口だね。でも行儀が悪いから同じくらいきらいだけどね。」
「え!」
うれしそうにはでな顔がぐいぐい近寄ってくる。常なら殴っているところだけどまあ食事中でもある。
雲雀はディーノのおさとうまみれの口をぺろり。ちょっとだけなめるとあまかった。キスとも呼べないけどディーノはうっとり目をつむっている。
ペーパーナプキンでぐいと拭ってやるとまたうれしそうだ。バカだなと思って、それからむずむずしあわせなきもちになった。
舌先にじわじわ、甘いのが残っている。





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いただきますは慎重に(090311)




「……あなた、どこか変じゃないの」
「なになに、俺の心配してくれてんのか恭弥?」
「ちがう。」
「え?なに?」
ディーノは来日してから日課のように雲雀をかいぐりかいぐりしている。誰が校内に立ち入りを許可したんだろう。ぎゅうぎゅうべたべたされて仕事にならない。もう三日目になる。長い滞在だなと雲雀はうんざりしていた。
なにせ殴っても脅してもあまり効果がないので、ほとほと困り果てている。
「あなた、ほんとに平気なの」
「だからなんだよ?」
「……」
むっと口をとがらした。ディーノにはよく効く薬のはずなのだ。
効かないはずがない。
しかしディーノはまるで平気そうな顔をしている。そういえばけんかが強いのだから他のものに対してもふつうの人間より強いのかもしれない。もっと直接的につきつけなければいけない。
ひたいがくっついて近しい場所にある顔にふっと息を吹きかけた。
「ん。……なに?」
あまり効果がないようで、量が足りないのかもしれない。もう一度ふうっと強く吹いた。ディーノの前髪がふわっと持ち上がる。日の光を反射してきらきらした。
「……」
「……なに食ったんだよ恭弥」
きれいなアーチの眉がへにょりと下がる。雲雀はしめしめほくそえんだ。
「薬だよ」
「香草だろ。なんかそんなにおいした!……ルッコラ?違うなぁ……」
ディーノはふんふん、ひばりの顔に鼻を押しつけてにおいをかいでいる。
「…………パクチーか」
「ワオ。鼻がきくね」
「それで?薬ってなんだよ。恭弥どっか悪いのか?」
おや、と雲雀は思った。正体までわかったというのにディーノの手は雲雀から離れない。それどころか心配そうに背中やら肩やら抱きよせてさすりだした。
どういうことだろう。
「僕はいつでも万全だよ。」
「うん?」
「『悪い虫によく効く』はずなんだけど。これを食べてると虫が寄ってこないし、刺されないんだって。」
「……」
「あなたむけだよ。わざわざ草壁に探させたのに。」
まるでわからない顔をしているディーノにむかついて、抱き寄せられた胸に腕をついて離れた。
「……『悪いムシ』違いだぜ」
ディーノはむずむずくすぐったそうな顔をしてから、かーわいいなあもう!と雲雀がせっかく押し返したからだをまたぎゅうぎゅうしてきた。
なんだか喜んでいる。
雲雀は失敗した。
良薬口に苦しというのはどうやらうそのようだった。苦い草をあんなにたんまり、もしゃもしゃ。がまんして食べたのに。
気付いてがっかりした。





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キスしてほどけて(090310)




さみいなあと言いながらぞくぞくっとふるえた。三月も半ばになった中学校の応接室だ。この学校には来客というものはないんだろうかとぼんやり考える。昼の日ざしだけはちょっと春めいていた。
応接室を占領している雲雀は午後の授業に出るでもなく風紀委員の仕事をしているらしい。
ディーノの向かいのソファで地図を広げてなにやら書き込んでいる。しかも中学校の見取り図どころか並盛全体の広域地図だ。それは中学校の委員会の仕事なんだろうか……といつもディーノはふしぎをいだいているけれど黙っている。

ぼんやりしているとくちゅん、と立て続けに二回くしゃみが出た。

雲雀が地図から視線を上げてこっちを見る。お、とうれしくなってにこにこした。
「さむいの?」
「……ちょっとな。コンクリートって底冷えするよなあ」
ずずっと垂れてきた鼻水をハンカチでぬぐっていると雲雀がローテーブルに腕をついて身を乗り出してくる。
「ん?」
せっけんのにおいがする黒い髪もふくふくのしろいほっぺたもあかいくちびるも全部が小作りで、まるごとかわいいものが近付いてきてディーノはますますうれしくなった。

ただ、そのかわいいものがいつまでも止まらないでぐいぐい距離をつめついにはディーノのくちびるにちょんと触れたものだからさすがにディーノは固まってしまう。しかも、一度離れてまたちょんちょん、と二度ほどさわってきた。どういうことだ。

「……あったかくなった?」
「ええ?」
きょとんとしていると雲雀がむっと口をとがらす。わずかな距離はそんなささいなしぐさでまたかんたんに狭まってしまった。
「こないだあなたが言ってたんじゃないか」
「えええ?」
「『こうするとあったかいきもちになるなあ』」
「……」
「……」
「あ」

もしかしてほっぺにちゅうしたことを言ってるんだと気がつく。それにしても棒読みにもほどがあるだろう。
イタリアに帰国するときに雲雀があまりにかわいいから一緒に連れて帰りたくなって、でもそれはとてもかないそうもないことだから別れをなごり惜しみ蹴られながらもぎゅうぎゅう抱きしめおでこと鼻先をこすり合わせながらほっぺにちゅうしたのだ。
そのときのディーノのせりふだった。それにしても棒読みがひどい。

「それで。あったかくなったの。」
雲雀はじっとディーノを見ている。早く早くと答えをせかす目をしていた。うずうずしている。
「…………うん」
ちょっとだけ考えて、うそをつくことにした。
「でもまだちっと寒いかな」






「ん。…………ん…………?!ちょっと待て。」
目もつむらないで、ディーノをあっためようとちょんちょん小鳥みたいにふれてくるかわいい雲雀をとろとろ見ていてはっとする。
これはいけない。
だましている張本人のくせディーノは青ざめた。
「なに。もうあったかい?」
「いや、おまえ。あの、これな。その、これであったかくなんのは俺だけだから!他のやつにしてもそいつはあっためらんねえ!」
こどもみたいなところのある雲雀だ。
まさか仏心を出して他の人間にこんなことをしたらそいつはたちまち雲雀のかわいさにめろめろになってしまうに違いないとディーノは本気で思っている。
ここは先生の務めの一環としてきびしく教育的指導をしなければならない。ぎゅっとほそい肩をつかんだら、その手を押し返して伸び上がった雲雀がちゅ、と触れた。
「……そんなの、知ってる」

ばかにしないで。

すねたみたいな口ぶりだ。ディーノはやられた。くらくらしている。





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夜明けのすきまふたりぼっち(090302)




ディーノがシャワーからあがると雲雀はいなかった。
ベッドの中ですやすや眠っていたはずなのに、そこはめくりあげられたふとんとくしゃくしゃのシーツでこんもりするばかりでいとおしくかわいいいきものの姿はない。
寝ていただろう跡のついた場所にてのひらを這わせ確かめるとそこはひんやりしていて、もうずいぶん前からここにはいないことをディーノに知らせていた。
「どこ行った」
よもや制服を置いて出て行くはずもないだろう。視界の端、椅子の背もたれでおとなしくしている黒い袖にいくばくか安心する。持ち主よりよほど行儀がいい。ぽたぽたしたたる水滴をごしごし拭きながら広いエグゼクティブスイートのベッドルームをゆったり見回した。
カーテンが外から吹き込む風にゆれている。
しょうがねーやつ、とディーノはこの上なくうれしそうな憎まれ口をたたいてむやみに大きな窓枠に近づいた。

「恭弥」
かくれんぼ、というほどもない。ひょっこり顔を出したテラスに恋しいこどもはちょこんと座っていた。
「なにしてんだ」
しゃがみこんで視線を合わせようとしてもうまくいかない。雲雀はとろんとした目で夜の空を見ていた。しかしねむたそうなひとみは天体観測をするような目付きとも言えなかった。
「……寒いだろ」
シャツ一枚羽織っただけのてきとうないでたちだ。それでも、冬空の下シャツをはおらなければ風邪をひくと考えたことをほめてやらねばならない。たいがい自分のからだに無頓着なのだ。
はじめはごくごくゆるく腕を回し触れて、雲雀がのろのろディーノの首に腕を回してきたのを確認してからぎゅっと抱き寄せる。冬の冷気を吸い込んだシャツがひんやりしていた。力の入っていないからだはかんたんにディーノの腕の中へおさまってきた。地面についた膝のうえに雲雀の重みがかかる。軽い体だった。ほそくておさない。実際はめんどくさいだけなのだとわかってはいるけれど、まるでいとけない赤ん坊のように無条件にディーノにぜんぶをあずけてきているようなきもちになる。鼻の奥がつんとした。
そのままゆっくり抱き上げても雲雀はなにも言わない。さっきからもうずっととろとろしていた。ねむいんだろう。ほっておけばこのままここでも寝てしまうかもしれない。どこまでもディーノが雲雀をかまいたくなるのはどう考えても雲雀のせいだと思った。

あたたかくぬくもった部屋へ戻り、後ろ手にきちんと窓を閉める。足をぶらぶらさせたままの雲雀をベッドへ降ろして毛布を肩までかけてやるときもちよさそうにん、とくぐもった声を漏らした。その拍子にくちもとがほころんで笑っているみたいに見える。赤ちゃんとおんなじだなあと思った。
雲雀の腕が、ディーノの首にからんだままだったからそのままディーノもとなりへもぐりこむ。
シャツを着ていた上半身はまだしも、素足のままだった下半身が冷えていた。ディーノの綿のねまきごしにもわかる冷えた足先を、まだ風呂上りでぬくい足の間に挟んでやる。
身長がだいぶん違うもので、足の長さも違う。ほそっこくすんなりした足を擦り合わせからめた。ディーノの腕は雲雀のうすい背中を抱いている。
どこもかしこもからまって、朝になればきっと雲雀はだらしのないことだときっと怒るだろう。ただ今はこのままふたり夢の中へとけてしまえそうだった。





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おこのみで(090228)




「……ほんっとおまえは無頓着だなあ」
ぶつくさ口では小言をこぼしながらディーノは困った顔でにこにこ笑っている。器用なことだと雲雀は思った。
「大事な手なんだからさ」
もっといたわってやれよと言うその手はこのうえないくらい大切そうな手つきでふれてくる。両手でうやうやしく包みこまれ、ひやっとつめたいものがディーノと雲雀の体温でじんわりとけていく。はちみつのにおいがした。
「……おいしそうなにおいだね」
「食うなよ。」
雲雀がさして嫌がらないことに機嫌をよくしたディーノは、ローテーブルにふたをしないで置いたままのハンドクリームを人差し指と中指とですくい取ってまた雲雀の手の甲のうえに伸ばす。
二人ぶんのてのひらの隙間でゆるいクリームがとろとろとけた。体温と同じ温度にぬくもったそれをディーノがそろそろとすり込む。つめのさき一本一本をかるく圧され、ゆびの股を雲雀よりいくぶん節ばったディーノの間接がかすめていった。きもちがよくて目をつむると ディーノがゆっくりほほえむ気配がした。
「きもちい?」
応接室のくろいソファのうえ、行儀の悪いことにスペルガのスニーカーをはいたままの足で雲雀を取りかこんでいるディーノがきゅうとその囲いをせまくする。
そのぶん距離がつまってこつんとひたい同士がふれた。
「ん」
「そっか」
ほんのすこし丸めていた背をディーノが伸ばす。伸び上がったさきはちょうど雲雀のおでこにディーノのくちびるがふれるくらいの場所だったのでそのまま小鳥のあいさつみたいなキスをされた。
雲雀の手にほんのすこし力が入る。ディーノの手の内でひくんとこわばった指先をなだめるようになでられてまたゆるんだ。クリームと体温が同じ速度でじわじわしみてくる。サンドイッチの具になった気分だった。





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バグフィックス(090228)




「恭弥なにしてんだ」
応接室のゆったりした椅子の背もたれにてろんとよりかかったきんいろがおもむろに身をかがめてくる。近い。近すぎる。鎖骨のところからあまっちょろいにおいがただよってきて、さらさらの髪が雲雀のあたまにふれそうにゆらゆらしていた。
うっとうしくて眉をひそめたけど気にするでもない。
それがまたいまいましい。
「なー恭弥ってば」
耳もとでぷう、とほっぺたをふくらましている。さらに近づいてきた。
放置しているとこういうふうに調子に乗ってくるのが腹立たしい。ただ相手にするとそれはそれでさらに調子にのる。
どうあってもうっとうしいのだ。どうにもこうにもしようがないので雲雀はまだましな方を選んでいる。
けれどディーノはちぇ、とかなんとかぶうぶうこどもじみたことをいつまでも言いながら、雲雀のまわりをそわそわそわそわ動き回っていた。あたまの上のきいろの鳥をさわるだけならまだしも、ちょんちょんと雲雀のつむじをつついたりしてくる。そんなだからいいかげんうざったくて雲雀はディーノをにらんだ。
「うるさいよ。」
さわるな、と無礼な手を払おうと腕を上げたらやすやすからめとられてしまったと思う。大人のてのひらだ。どう控えめにみてもこどものやわい力ではない。ディーノはいつだってずるい。こどもみたいなふりをして、でもふいにこぼすおとなのやらしさも別に隠すでもない。
「さわるなって言ってる」
「んー?」
「はな、」
「手ぇあかぎれになってる」
ちゅっとちいさい音がしてぎくっとした。
ぬるい温度が、うすい皮膚ごしに触れている。雲雀の抗議なんて聞いているのかいないのかディーノはわずかにしめったくちびるで、かわいた雲雀の手の甲を確かめていた。
振り上げた腕の筋をねじるみたいにとられているから自分の腕がじゃまで雲雀はどうにもできない。うかつだと思った。顔をあげることもできない。ふりむくことも。
見えない後ろがわから乾いたキスの音だけが聞こえてくる。雲雀の腕とディーノの掌がつながって、いびつでせまい閉じた世界になった。





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閉じた世界のまんなかで。
真夜中の研究室であいましょう
天国のドアをたたく日
グロス
愛の火みっつオレンジ
百万回でも足りないの
ガーデニアひらく季節のまえに / くちなしきんいろリボン
ぼくたちが恋する理由
おとしもの / わすれもの
過日のひみつ
腕の中の地図